お盆が来る頃になると
毎年スイカを自転車に括り付けて 日に焼けて ひまわりみたいに笑う ご門徒のn沼のおじさんが えっちらおっちら自転車を漕いでやってきます ここに本堂ができてから毎年です お盆が過ぎて ある日の朝 本堂には ご門徒のK山さんが来ておられて 信ちゃんに『 よい体験をプレゼントしたい 』と仰ってくださって パンフレットを並べて 夏休みの旅の計画の確認をしておりました 「 『オオムラサキセンター』も行きたいねぇ。 美術館もあるし、釣りや化石堀りもあるし・・・ 2日では回れないねぇ。 」 頭の中がすっかり1週間後に飛んでいた その時、ピンポ~ン! 庫裏の玄関のインターホンが鳴りました お盆も過ぎて、朝からお訪ねになる方も少ないのに誰でしょう? 玄関先にはいつものように大きな声のn沼さんがニコニコ立っていました 「 今年は雨ばっかりで今頃になってすいません。 こんな身体になっちまって どうしようもねえや! 奥さんこれ 仏さんに線香代を供えてください。 」 n沼さんはいつも私を「奥さん」と呼びます。 このおじさんと話していると「 奥さん 」でも「 おばちゃん 」でも 坊守さんじゃなくても 呼ばれ方は何でもいいか、と思います。 この日もいつものように突然やって来て 突然去るものと思って 自転車のところまで見送ろうと外に出ました。 でも、いつもと違う。 何が・・・と言っても・・・ いえ。 私はn沼さんを見た瞬間 異様を感じてはいたのです。 でも、n沼さんがいつも通りに大きな声で笑って帰ろうとなさるので それに合わせたのです。 「 俺もう、歩いてここまで来れねえや。」 「 ええ~! ここまで30分も自転車漕いで来る人が、何言ってんですか! 」 「 いやぁ、もう歩けねぇんですよ。 俺、ほら13年前に癌でこっちの目を取ったでしょ。 その後肝臓にも癌が出来ちまって、3年前にそれも手術したんですよ。 そいつがまた再発しちまってさ、オプジーボ あの高い抗癌剤打ってるからこの格好だ。」 そう、それまでのn沼さんは真っ黒に日焼けした人だったのに この時は肌が斑に白くなっていました。 「 今おいくつになられました? 」 「 今70だ 」 若い・・・ 頭の中でドキドキと言葉を探しながら いつもとあまり変わらぬ言葉を交わして 後ろ姿を見送ってしまいました。 後になって私の頭の中に 後生は? 「 お前さんの後生は大丈夫か? 人の生き死ににオロオロしていて、あんたの後生は解決しているのかい? 」 そんな声が聞こえてきました n沼のおじさんは法話会にも滅多に来る人ではないのです。 だから、私はそんな人には仏法を伝えないと と心のどこかで思っていたけれど・・・ 住職の書くお便りは 全部取っておいてよく読んでいらっしゃるご様子。 私の方がオロオロしているじゃないか! 一大事 一大事と聴きなれているのに その一大事を持ってきた人の眼を見て話せず 言葉を濁すとは・・・ 私はいつも何をしよるとやろうか・・・何を聴きよるとやろうか・・・お念仏のご法義はお勉強ではなかろう? n沼さんと次にお会いする時は、あの まだ見える方の眼を見て落ち着いて話そう いや、 待てよ そうだ、私がこうであるからこそのお救いか こんな私だからこその 間に合わない私だからこその 間に合ったお救いか あのn沼さんの眼差しは 私へのご催促でした なんまんだぶ お浄土が 遥か遠くにあるように思って よそ見をしながら 今日も歩いている この私への ご教化に遇わせていただきました 『 坊守のやがて慶ばしき日々 』から やがてが無くなって『 坊守の慶ばしき日々 』と自信をもって言える日はいつだろう 如来のお育ての手の上を 見えるようで見えていない おぼつかない足取りなのに 安心して歩いています なもあみだぶつ
by shinwoyorokobu73
| 2017-08-24 23:24
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